WOODWORK 藤本雅也

シンプルな構造と安全性を実現させた、革命的なイス。

かつて江戸の町づくりのために材木商が多く集結したと言われる、東京の下町。明治30年に創業した材木店を母体に持つ木製家具工房WOODWORKも、下町の喧騒から一歩奥まった静かな路地裏に。世紀を超えた日本の木材の歴史を現代へとしなやかにつなぐのは、代表の藤本雅也さん。地下には今も大きな製作所を残しつつ、かつて材木がずらりと並んだ工場はカフェを併設したガラス張りの美しい店舗に。同じ木製家具であるトリップトラップのシンプルな構造と美しい佇まい、さらにその耐久性に憧れを抱く藤本さん。子どもたちにも受け継ぎたい、木製家具の魅力を語ります。

 

WOODWORKは家具工房としてだけでなくカフェを併設されるなど、外に開かれた空間が印象的です。どのような思いで、このような新しい家具店を作られたのですか。


18歳の時に古着屋さんに勤めたていたのですが、当時、ミッドセンチュリー家具のブームがあって古着屋でも中古の家具を扱っていました。それが私とデザイン家具との出合いです。次第に、家具作りをしたいと強く思うようになり、デザインの専門学校に通っている時にWOODWORKの前身である材木店に巡り合いました。

ここに来るまでには本当にいろんなことありましたが、WOODWORKを引き継いだ今は、自分たちが考える家具を一つのブランドとして成り立たせたいという想いが一番です。そのための挑戦として、家具を中心とした店の空間をより面白く活用するためにカフェを併設し、お客様の体験を作り出したいと思いました。

家具屋さんとしては、すごく贅沢な作りです。体験できる場所として、子どもたちのワークショップも手がけていらっしゃいますが、子どもたちはどのような様子ですか。 

 

日頃過ごしたことのない空間で、大きな材木に触れてもらうことが目的です。地下の工場には見たこともない機械がたくさんあって、子どもたちは「なんだろう、なんだろう」と目を丸くしています。危ないから触っちゃダメ、と言うのではなくちゃんと説明をすると「そうなんだ」って納得をしてもっと興味が湧いてくるんです。そんな、子どもたちのわくわくする気持ちをバックアップするようなワークショップが開けたらと思っています。完成された家具しか見たことがなかった子どもたちが、大きな木材と完成品の間にある、「作る」という“答え”に触れることで、誰もが生き生きとした表情になるんです。 

藤本さんがトリップトラップのイスを初めて知ったのは、どのようなときですか? 

 

初めてトリップトラップを見たのは銀座 松屋です。海外のデザイン家具が集まる場所だったので、よく足を運んでいました。「これ、イスか!」って思いましたね。衝撃的でした。まずイスって4本脚が基本という概念だったので、そうじゃないってことと、僕はミッドセンチュリーのデザインから家具の世界に入っているので、もっと曲線的なもののイメージが強かったんです。そんな印象の中でトリップトラップがずらっと並んでいるのを目の当たりにした時、直線的でかっこいいなと思いました。しかも子どもの椅子で、変形していくという機能性も備わる。当時、他にはないデザインだと見惚れたのを覚えています。 

息子さんが生まれた時にも、トリップトラップのイスを選んだのですね。 

 

我が家のトリップトラップは、ブナ材の素地の色です。息子はもう15歳ですが、我が家のダイニングには大人用のイスの一つとして置いてあります。気がついたら誰かが座っているという感じです。子どもが埋まれた当時は、トリップトラップを買うのが、自然な流れでした。学生時代に初めて見た時の衝撃もあったので、多分それ一択だったんだと思います。 

 



――この発想が出来たことは、同じ家具職人としてうらやましい―― 


 


トリップトラップの良さや使用感について、プロの目から見てどう感じていますか。 

 

まず、ゼロから自分で組み立てるという発想がすごいと思います。長く使っていくために、イスの強度を出すことは非常に難しいことなんです。それを、複雑な構造で維持するのではなく、少ない要素でシンプルに維持していることは本当にすごい。イスは人が座るということで荷重のかかり方も非常に複雑になるので、それを安全に受け止められるのはこのデザインゆえだと思います。構造として、136キロまで支えられというのは驚きですよ。家具を作る立場としては、この発想ができたことは本当にうらましい気持ちです。 

木の家具の良さについては、どのように考えていますか。 

 

まず身近な素材であるということが、第一にいい点だと思います。そしてもう一つは、経年変化。使い込んでいくほどに、重厚感が出て艶が増すという良さもあります。さらに、直せるという点は素材の魅力ですし、暮らしの変化に応じてリメイクすることもできるのが木の魅力ですね。 

木材に関しては、限りある資源ということで、環境問題をはじめ色々な問題を抱えているのも事実です。それらをどうクリアにしていくかは、我々作り手や林業の方たちに課せられている重要な課題。私たちとしては、木という素材を無駄にしないことが非常に重要と考えていますので、長く使えるものをどう作るかということを常に大切に考えています。制作前にはお客さんに、なるべく板の状態を見せるようにしています。立ち木の状態から家具になる材木が、ちゃんとストーリーとして繋がっているような伝え方も重要かなと感じています。 

子どもが使用する家具の魅力と、選び方のポイントを教えてください。 

 

まずは安全であるということが第一条件です。子どもの家具ならば、面白いとかユニークであることが、いいのかなと思います。イスなら、子どもが使うことによって座るだけじゃない何か楽しみがあったりとか、机なら文字を書くだけではなくて子どもの自由な発想の手助けするようになっていたりとか。何かユニークさが込められた家具は、子どもの家具ならではの良さですよね。 

 

 

トリップトラップはノルウェー生まれですが、日本の住環境にも合うと思いますか。 

 

独特なL型ですが全体の形がとてもシンプルなので、どんなダイニングにも合うと思います。たった一つだけのトリップトラップでも、不思議と他のダイニングチェアと溶け込んでいるのを目にします。シンプルな構造がそうさせているのかもしれませんね。トリップトラップのような木製家具には、長く使っていく豊かさと素材としての豊かさがあります。家具というのは、生活の中で人を手助けする道具です。何もない空間では、人はゆっくり休むことはできないし、気持ちよく生活していくことは難しいですよね。そんな中で、家具は使う人の疲れを癒したり、食事の時間を支えたり、空間を華やかにしたりすることができる。当たり前の生活という豊かさを支えてくれるのが、家具の存在価値だと私は思います。 

 

 

取材・文:須賀美季

写真:髙田久美子

Text:Miki Suka

Photos: Kumiko Takada

 

子どもとともに成長する椅子 – 人生をともにする椅子​


トリップ トラップは、1972年の発売と共に瞬く間に子ども用チェアに画期的な新風を吹き込んだ、ピーター・オブスヴィックデザインの独創的なチェアです。

あらゆるご家庭のテーブルにもぴったりフィットするデザイン。赤ちゃんと共にテーブルを囲んで食事が楽しめ、赤ちゃんは家族のすぐそばでさまざまなことを学びながら成長することができます。

座板と足のせ板のどちらも、奥行きと高さを調節できる考え抜かれたデザインです。また、お子さまの活発な動きを妨げません。

人間工学を基にデザインされており、成長にあわせて調節できるので、子どもから大人まで常に正しい姿勢をサポートします。​