モンテッソーリ教師 あきえ

モンテッソーリ教育の視点で考える、家族との時間と座るイスの大切さ。

     

8歳の子どもをもつママとして子育ての真っ最中です。日々子どもたちのいる世界に身を置くあきえ先生に、モンテッソーリ教育が大切に考える、子どもたちの生きる環境とより良い成長とは何か、そして私たち大人が本当にできることは何なのかを、インタビューしました。

 

トリップトラップも、家族みんなが同じ目線でテーブルを囲めるようにという考えで作られています。家族と一緒の時間も、モンテッソーリの考え方と共通すると言えますか。


自分が生まれたいちばん最初の小さな社会って、家庭なんです。この家庭という場所で自分はその一員なんだという帰属意識がしっかりと幼少期から育まれていくと、子どもは安心感を抱くだけではなく、やがて自分が属している家族に貢献する気持ちにもつながっていくんです。

子どもの自立と自律を支えていくモンテッソーリの概念には、子どもは安心感を抱きながら自らの環境を探索していく、という考え方があります。ですから、家族のために家事を手伝うとか、家のことを自分でやるような経験の積み重ねが子どもの自主性や主体性、何事も自分で考えて行動する力にもつながっていきます。

だから、離乳食が始まったときはもちろん、まだ食事ができない時でも、家族のテーブルに赤ちゃんを招いてあげて、あなたの仲間だよっていうような環境や空間を作り出してあげることがとても大切です。赤ちゃんだったとしても、大人だけで完結してしまう食事の空間に参加させてあげることは、自分も仲間だ、会話に入れてもらえるんだ、そして自分はそれをしてもらうだけに値する存在なんだっていう、「自尊感情」という育みにもつながっていきます。

モンテッソーリ教育の教具は、木製で見た目も美しいものが多いですね。子どもたちが触れるものの美しさと機能性については、どういう特徴があるのですか。


モンテッソーリ教育では独特の教具を使用します。それら教具は、「私を使って!」って訴えているぐらいに魅力的であるべきだと言われています。見た目も美しく、子どもたちが使いたいという気持ちが湧き起こるような、教具そのものに魅力があれば、大人が強要することなく子どもが自ら進んでやるという考え方です。それは高価なものや華美なものということではなく、本質的なものである必要があります。本物の素材として、自然の中にある木製のものがメインというのもその理由です。

教具を用意しなくても、家庭で実践できることはありますか。


家庭の場合だったら、子どもに合ったサイズの道具を揃えることや、生活の環境を子どもの背丈に合わせることで、子どもが自分で何かをできる環境にしてあげることができます。イスだったら、自分で登って腰掛けられるものが良いですよね。座ったときに高さがマッチしていれば、居心地もよく、子どもは自分の置かれた環境もその椅子も好きになります。食事の準備の時には、子ども自身が使うカトラリーや食器が自分で取れるところにあって、自分で選択ができることも実践可能ですね。

そのような子どものための環境は、新生児、幼児期、学童期のような形で、子ども成長に合わせて変えていくということですね。


生活環境って、良くも悪くも一回整えたら完璧ではないんです。完璧をキープするために、環境を整え続けないといけないんです。0歳のときに良かった環境も、離乳食が始まる6ヶ月ではまた大きく違いますし、1歳になった時にはもう、イスを置く位置も高さも変わってくるので、私たち大人はいつでも子どもたちにちょうどいいように調整をして、整え続けてあげる必要があります。


家族で食事をするときの環境づくりとして、大事にすべきことはありますか。


いちばんは、子どもにとって心地のいい環境であるかっていうところです。住宅環境とか各家庭でその心地よさは異なってくるかもしれませんが、一番は子どもの居場所だと思います。高すぎる机や安定しないイス、足がブラブラしていたら、食事を早く終わらせてしまおうと思ってしまいますよね。子どものサイズに合った居心地の良い環境が作ってあげることが、やはり大事になります。


環境を整えるという点では、食卓を囲むイスは、生まれる前に用意をしてずっと同じイスを使わせていく方がいいのか、それとも子どもに自立心が出たときに自分で選ばせる方がいいのか、どちらが良いのですか。


私は住環境に合わせてちょうど良いイスを最初に用意してあげることはすごく良いと思います。まずは、最初の環境として離乳食を本当に安心して食べられる場所とか、生まれたときから家族の一員として参加できるような場所を、大人側が用意してあげるのがいいかなと思います。

トリップトラップは成長に従ってサイズを変えられるので、子ども自身が大きくなった時、自分から親にサイズを調整して欲しいと言えることも自発的な活動に繋がりますよね。


調整できることは、人生のいろんなところに通じる重要なポイントだとも感じています。一度持ったらそれっきりじゃなくて見直して改善点を見つけて調整していくことは、人生にもすごく必要な力だと思うんです。子どもの様子を観察していないと、子どものサイズに合っているかイスの調整時期が把握できませんし、子どもが自分で行う場合でも、作業を通じて主体性も生まれ、自立にもつながってすごくいいと思います。

トリップトラップの使い方で、おすすめの方法はありますか。


私は、子どもたちにお食事を作っている所を見せて欲しいと常々思っています。ですから、トリップトラップに装着できるニューボーンセットは、特にキッチンで使って欲しいですね。大人は食事を作りながら、赤ちゃんの顔を見て話しかけることができるのは、赤ちゃんもすごく安心するんですよね。料理中、目線の近くで赤ちゃんを見ることってなかなかできませんから。私自身も、2人の娘は0歳のときからキッチンに連れて行っていました。私も赤ちゃんを見れて安心ですし、子どももそばにいられて安心。切ったばかりのニンジンを持たせたりして、楽しい時間を過ごしました

モンテッソーリ教育と子ども成長については、どのようにお考えですか。


本当であれば子どもの発達に合わせて、モンテッソーリ教育やオルタナティブな教育も含め、さまざまな教育方法が選択できることが、社会全体の課題ではあると認識しています。ただやはり、人生で一番大事なのは乳幼児期だと私は考えています。なぜかというと、乳幼児期は人格形成の基礎を作る大事な時期だからです。

それは家作りでいうと、基礎工事のようなものです。乳幼児期の間に、その子らしく人格形成の基礎を作り上げられたら、その後は自分にフィットする環境を探していくだけだと思うんです。自分にとって何が喜ばしいか、何か嫌なのかが理解できることなど、主体性や自主性、選ぶ力が育まれていれば、その後は親や周囲の大人の助けを受けながら、自分の答えをきちんと導き出せるようになるからです。児童期でそれができるかできないかは、乳幼児期に何を経験してきたかにかかっていると思っています。


モンテッソーリ教育を通して、子どもたちの未来をどのように思い描いていますか。


モンテッソーリ教育は、平和を目指す教育方法です。なぜかというと、自立した人たちが集まった集団の中では、争いでなく調和が生まれるからです。ですから、家庭内でやっていることは、一対一の小さな関わりかもしれませんが、いつか必ず周囲にも、次世代にもその輪は広がっていき、次の時代にはもっと尊重し合うことが当たり前で、平和な社会になっていくだろうなという確信があります。


子どもを尊重するというのは、シンプルなようで実際は難しい場面にも直面します。あきえ先生が考える、子どもを尊重するというのは、具体的にどういうことですか。


一言で言えば「あなた」という子どもの存在を、1人の人格ある人間として対等に関わるっていうことです。子どもを尊重するというのは、好き放題なんでもいいということとは違っていて、モンテッソーリ教育では、ここまではいいけれどここからは駄目という制限がある中の自由を保障しています。例えば、海をイメージしてください。何の仕切りもない大海原に入って行って、どこまでも行って遊んできていいよって言われたら、一見すごく自由で嬉しいですよね。「え、いいの!」って子どもは思うかもしれない。でも同時に、どれくらい海が深くなってるのか、サメは出るのか、怖くないかとか、いろんな不安が湧き起こるんです。このように、制限のない自由は子どもにとって実はすごく不安でもあります。

でも、決まった遊泳エリアにロープが張られていたら、子どもがすごく安心できるのと同じで、ある程度の制限を決めた中での自由を保障してあげることで、子どもは自由を満喫できるんです。家庭では、例えばいつでもお菓子を食べていいわけではないように、子どもの健康や発達を考えれば、どこかで線引きをしなければいけませんね。この線引きをすることも、ある種子どもを尊重することなんです。


大人として、そのロープをどこに貼るかみたいなことを考えていくっていう感じですね。そのためには、家族同士のコミュニケーション力も必要になりそうですね。


そうです。やはり1人の人間として尊重するときには、相手の意見を聞くことは欠かせないですから。子どもには子どもの主張があるので、いちばん最初にその主張が出やすいのはイヤイヤ期だと思うんですけど、子どもにとってはまずそれを受け止めてもらう経験も重要です。

コミュニケーションは筋肉みたいなものでトレーニングが必要なので、いちばん安心できる家庭内で、まずはどんな意見を出しても受け止めてもらえる環境で経験を重ねていくことが大切です。同時に、自分の意見が通らないという経験もしていくことで、人の意見が自分と異なるときに、どう折り合いをつけていくのかといった社会的スキルを学ぶチャンスでもあります。


トリップトラップというイスにも、家族で同じテーブルを囲むことで対話の時間を大切にしたいという願いが込められています。食卓を一緒に囲むことも、モンテッソーリでは大切にされていますね。


食卓を囲むことは、栄養摂取するための時間だけではなく、そこで生まれる対話とか、おいしいねっていう共感とか、一緒の時間そのもの味わうとか、人間としてのソーシャルスキルに繋がるような育みの時間でもあると思います。モンテッソーリ教育も、食のアクティビティを特に大切にしています。一人で食べるよりも、誰かと半分こをして一緒に味わうことでそこにしか生まれない感情や時間があるなどをすごく大事にしています。食は生きることにもつながるので、食から感じられる喜びや感謝、満足感、そういったところもにもつながるので、すごく大事にしていますね。

取材・文:須賀美季

写真:髙田久美子

Text:Miki Suka

Photos: Kumiko Takada

 

子どもとともに成長する椅子 – 人生をともにする椅子​


トリップ トラップは、1972年の発売と共に瞬く間に子ども用チェアに画期的な新風を吹き込んだ、ピーター・オブスヴィックデザインの独創的なチェアです。

あらゆるご家庭のテーブルにもぴったりフィットするデザイン。赤ちゃんと共にテーブルを囲んで食事が楽しめ、赤ちゃんは家族のすぐそばでさまざまなことを学びながら成長することができます。

座板と足のせ板のどちらも、奥行きと高さを調節できる考え抜かれたデザインです。また、お子さまの活発な動きを妨げません。

人間工学を基にデザインされており、成長にあわせて調節できるので、子どもから大人まで常に正しい姿勢をサポートします。​